大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和24年(つ)396号 判決 1949年11月21日

被告人

安岡勇

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴に関する訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人武井正雄の控訴趣意の要領

第一、原判決では被告人が本件大豆を買受けた相手方の高橋正藏が生産者であるか否か明かでない。もし生産者であればその買受の標準價格は第一の犯行については昭和二十二年十一月十九日物價廳告示第一〇二九号を適用すべきで昭和二十三年二月七日、物價廳告示第八五号を適用したのは誤りである。

大豆の公定價格は瓩を基準とすべきなのに二回共二斗五升として超追額を算出したのは違法である。

裁判時に於ては犯行時に比し公定價の値上があつて第一回の分についても昭和二十三年十一月一日の告示第一、一〇四号を適用すべきである。即ち刑法第六條の比照をなしていない違法がある。

第二、被告人の家族の状況に本件犯行による利得額等を照し合せて見ると原審の科刑は著しく過重である。

と謂うのである。

これに対する檢事の答弁は、高橋正義が販賣業者であるか、生産者であるかによつて、統制額に差異の生ずる本件の場合に於て、被告人がその何れから買受けたのかの事実は判決理由に於て確定する事項であるのに原判決が高橋正義の業態を明白にしなかつたことは判決に理由を附せざるものと謂ふべきであるから此の点に於て控訴理由あるものと思料するがその他は理由がない。

と謂うのである。

控訴趣意第一点について。

なる程原判決の被告人が本件大豆を買受けた相手方高橋正義の業態につき明確に表示していないがその証拠に引用した同人提出の始末書の記載によると高橋正義は食糧品商並びに雜貨商を営んでいる者であることが窺えるから同人を生産者でなくて販賣業者と認定したものと見られる。從つて本件第一回大豆取引につき原判決が昭和二十三年二月七日物價廳告示第八十五号を適用し同号所定の販賣業者の統制額を基準としてその超過額を算定したことは洵に相当である。この点につき弁護人は昭和二十二年十一月十九日物價廳告示第千二十九号を適用すべしと主張するのであるが同告示の統制額によるときは原判決の採用した統制額よりも遙かに小額の統制額によつて超過額を算定することとなり被告人のためには却つて不利益な結果を生ずることとなるのでかゝる主張は抑々控訴趣意としては適当でなく採用し得ないことは論を俟たない)たゞ原判決がその超過額の算定の基準を表示するのに告示所定の瓩を以つてしないで二斗五升としているのは適当でないとの批難はあるかも知れないが大豆一斗は約十四瓩に当ることは経驗則上明かでありこれを第一回の取引について見れば前記告示第八十五号所定の六十瓩以外の中味賣りの場合であるから八百十一円二十銭より三円十銭を控除した額を基準とし一斗を十四瓩として算出すれば原判決認定の通り超過額は三千三百七十八円六十一銭となることが計数上明白であつて第二の取引についても同樣である。仮りに計数上の多少の差異が出たとしても判決に影響を及ぼすべきものとは認められない。從つて原判決が基準量を瓩を以つて表示しなかつたとしてもこれを以つて違法とは言い得ない。

次に公定價格の指定をなす物價廳告示は刑法或ひは統制法令に所謂処罰規定そのものではなく犯行時の公定價格と裁判時のそれとが異るに至つたとしても特別の規定のない限りは前者を基準とすべきことは言うを俟たないところであつてその間に刑法第六條の適用を考える余地はないのである。原判決が第一の取引につき刑法第六條及び昭和二十三年十一月一日物價廳告示第千百四号を適用しなかつたのは相当であつて何等の違法はない。

控訴趣意第二点について

以下省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例